『ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ』
著:ナガノ
人生にオチなんてなくていいのだ!
『ちいかわ』に登場する主なキャラクターは3匹。ちいかわと、その友達のハチワレとうさぎ。みんなとにかくかわいくて、トボけた行動にほっこりさせられます。
でも読み始めた最初は、正直ちょっと戸惑うかも。なぜなら彼らの行動には、あまりにもオチがないから(笑)。ただ目の前の出来事にびっくりしたり、喜んだり、ささやか過ぎる発見をしたり……。
だからこそ読み進めているうちに、気付いてくるのです。何にでも意義や意味のようなものを求めてしまう、自分の悪い癖に……。人間関係も、起こった出来事も、もっとシンプルにただありのままに受け止めればいい。『ちいかわ』を読んでいると、そんなブレーキをかけてもらえる気がするのです。
困難から逃げていては真の幸せはつかめない!
とはいえ『ちいかわ』は、ただただ私たちをほっこりさせてくれる生ぬるいマンガでもないのです。ささやかな幸せを大事に、平和に生きる彼らの前には様々な困難も押し寄せます。
たとえば怖い虫が襲ってきたり……、
その虫退治をしているうちに、大きな穴に落ちたり……。
でもちいかわたちはその現実から逃げることはせず、一生懸命立ち向かっていきます。……そう、人生はシビアなもの。でも困難と真っすぐ向き合い、乗り越えていった先には真の幸せが待っている。ちいかわたちの姿からは、そんな勇気ももらえるのです。
あらためて感じさせられる、働いて物を得る喜び
欲しいものがあればポンポンと買い、簡単に使わなくなる……。そんなふうに物が溢れる時代に暮らす私たち。ちいかわたちの、一生懸命働いて欲しいものを手に入れる姿にも何かと考えさせられてしまうことでしょう。
ハチワレとおそろいの槍が欲しかったちいかわ。買うお金を貯めるために、草むしりをしたり、虫討伐をしたり。それは涙ぐましい努力ですが、そうして槍を手に入れたちいかわの嬉しそうな顔を見ると、なぜかちょっとうらやましくもなってしまうのです。私たちのほうが、はるかに簡単に欲しいものを買えるというのに……。
そんなちいかわたちの前に、振るだけで欲しいものが出てくる杖が現れます。それを使って、ずっと欲しかったカメラを手に入れたハチワレ。でもそのカメラで撮ったものがどんどん消えていく、という恐ろしいことが起こり……。
最後は杖を折って物欲の支配から逃れたちいかわたち。自分の力でお金を貯めるため、あらためて強くなろうと心に決めるのですが、その姿のまたかわいいこと……。
癒されながら、今の私たちに必要なこと、そして足りないものを教えてくれる『ちいかわ』。忙しくてマンガを読んでいる時間なんてない!という時こそ、ちょっと手に取ってパラパラめくってみてほしいと思います。
取材・文/山本奈緒子
Edited by VOCE編集部
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