『うるわしの宵の月』
著:やまもり三香
初めて恋をしたときの戸惑い、覚えていますか?
高校一年生の滝口宵は、王子様のように美しい容姿の持ち主。性格も硬派で、ケガをした女子生徒がいればお姫様抱っこをして助ける。貢物は後を絶たず、それゆえ付いたあだ名はそのまんまで「王子」。がしかし、たった一つ問題が……。それは、宵が女性だということなのでした。
女として見られないことに複雑な思いを抱きながらも、自分の容姿を受け入れて生きていた宵。ある日、ひょんなきっかけでもう一人の王子、市村琥珀と出会います。宵を美人と言い、どんどん近づいてくる琥珀。宵は、経験したことのない気持ちに戸惑いっ放し……。
こう聞くと、ただのハイスペックな2人の恋物語かと思うかもしれませんが、違います! 宵は女扱いされることにとにかく慣れていない。そのため、琥珀が宵に対して繰り出す一挙手一投足に、真っ赤になったり疑ったり拒絶したり。読んでいると、自分が初めて恋をしたときのことを思い出して、「あったあった!」と“懐かしキュンキュン”してしまいます!
人は誰しもコンプレックスを抱えている
さて、「王子と王子がくっついたら王子がいなくなっちゃう」という女子たちの心配をよそに、お互いどんどん素直になって、距離を縮めていく2人。宵は初めて女扱いされたことで、どうしていいか分からずつっけんどんになっていたことを素直に告げます。
一方、琥珀は琥珀で、家がお金持ちゆえ本当の自分を見てもらえない、というイラつきを抱えていました。それゆえ、生真面目で自分にも人にも正直に生きている宵に惹かれていったよう……。
こうして読んでいると、どんなに全てを持っているように見える人にもコンプレックスはあるんだ、ということをあらためて感じさせられます。そしてそのコンプレックスを補い合うためにするのが、恋というものなのかもしれません。
ストレートに2人の世界で勝負する一作
面白いのはこの作品、ラブストーリーではありますが、意外とものすごーく盛り上がるシーンがあるわけじゃないんです。初めての恋の心情、2人の心の交流が、ただただ淡々と描かれている。
また他の登場人物がほとんど描かれず、終始2人の世界で物語が進んでいくのも特徴的なところ。それゆえ絵の美しさが際立っていて、読めば読むほど漫画の世界観に惹き込まれていくんです。
そんな瑞々しくもどこか文学的な香りのするラブストーリーは、どの世代、性別でもきっと魅了されることでしょう!
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取材・文/山本奈緒子
Edited by VOCE編集部
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