「美容」から考え直す、当たり前

スマホの加工顔が理想の私?加速する“美容整形”願望の実態

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顔加工 「美容」から考え直す、当たり前

SNSや写真アプリで自撮りをすると、自動で「顔加工」をしてくれる便利な時代。ところで、その加工された顔を見て、近づきたいと思ったことはありませんか? 「顔加工」の技術が持つ闇の側面について、「盛り」文化研究をされてきた久保友香さんに考察いただきました。

この記事を書いたのは…
久保 友香(くぼ・ゆか)さん

メディア環境学者

久保 友香(くぼ・ゆか)さん

1978年、東京都生まれ。東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。博士(環境学)。専門はメディア環境学。東京大学先端科学技術研究センター特任助教、東京工科大学メディア学部講師、東京大学大学院情報理工学系研究科特任研究員など経て、独立。著書に『「盛り」の誕生:女の子とテクノロジーが生んだ日本の美意識』(太田出版、2019年)。共著に、『プラットフォーム資本主義を解読する:スマートフォンからみえてくる現代社会』(ナカニシヤ出版、2023年)など。

顔加工アプリが美容整形を加速?

顔加工 「美容」から考え直す、当たり前

近年、美容整形をする人が増えているようです。国際美容外科学会(ISAPS)が発表する調査レポートによれば、手術治療の件数が過去4年間で33.3%増、非手術治療の件数は54.4%増といいます。※1 その要因の一つに、InstagramやTikTokなどの写真・動画SNSや、顔加工アプリの普及があると一部で注目されています※2。 SNS上で交流する顔加工アプリで加工した「バーチャルな顔」と「リアルな顔」とのズレに「劣等感」を持つ人が増えているからではないか、という仮説です。因果関係を探る研究も行われています。※3

その「劣等感」が、若者のメンタルヘルスに悪影響を与えているということも、かつてから欧米を中心に議論されてきました。※4
2021年、ノルウェーでは若い女性の死因の第3位が拒食症であることを背景に、加工を施した写真をSNSに投稿することを取り締まる法律が可決されました。具体的には、広告主やインフルエンサーがそのような写真を投稿する場合には、加工したことを開示することを義務付けるものです。※5

顔加工 「美容」から考え直す、当たり前
TikTokのエフェクト「ボールド・グラマー」を利用した状態(筆者提供)

2023年に入ってからも、TikTokに新たに追加された「ボールド・グラマー」というエフェクトが議題に上がり、その中には「有害な『美の基準』がさらに極端なものになる」として問題視する声もありました。※6
というのもそのエフェクトを使うと、「形の整った血色の良い頬、ふっくらとした唇、手入れされた色の濃い眉毛に毛穴が見えない肌」が手に入り、まるで自分のリアルな顔がこうだったのかと錯覚するほどに高性能に顔加工がされてしまうからです。

プリクラとは異なる「盛り文化」が登場?

SNSや顔加工アプリというテクノロジーが、若者に「美の基準」を押し付け、「劣等感」を抱かせて、メンタルヘルスに悪影響を与えたり、あるいは美容整形を促進しているという仮説ですが、私はにわかには信じていません。少なくとも日本の若者に関しては。

なぜなら、私は、1990年代以降の日本の若者たちが、プリクラや顔加工アプリあるいは化粧などのテクノロジーを用いて、バーチャルなコミュニケーションで交流する外見を加工する「盛り」を研究してきました。各時代に若者だった人たちにインタビューしてわかったのは、日本の若者たちが「盛り」で目指してきたものは、決して普遍的な「美の基準」ではないということです。例えば、1990年代後半からの若者が目指した「ガングロ」も、2000年代後半からの若者が目指した「デカ目」も、普遍的な美を目指したものではなく、むしろそこには既存の美の基準への「反抗心」がありました。それは、バーチャルにつながる仲間との「協調性」や、新しいテクノロジーを使ったものづくりへの「好奇心」から導かれた基準で、リアルな外見とのズレを楽しむ「遊び心」がありました。詳しくは、2019年に出版した『「盛り」の誕生』という本を、参照いただければ幸いです。※7

そういう履歴を持つ日本の若者たちが、InstagramやTikTokの登場によって突然、普遍的な「美の基準」を目指すように転換し、リアルな外見と「盛り顔」のズレを受け入れず「遊び心」を捨て、ただ「劣等感」を抱くようになったとは、にわかには信じ難かったからです。

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「加工顔」に近づきたい?

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